Heavy Metal Britannia

今年3月5日にBBC4で初回放送されたブリティッシュヘヴィ・メタルのTVドキュメンタリー番組『Heavy Metal Britannia』を見ました。
90分番組で、以下の人たちがインタビューを受けています。

Rob Halford / Brian Tatler / Glenn Tipton / Tony Iommi / Bruce Dickinson / Ian Gillan / Jon Lord / Malcome Dome / Bill Ward / Dave Davies / Neal Kaye / Edgar & Steve Broughton / Arthur Brown / Burke Shelley / Geezer Butler / Mick Box / Biff Byford / Lemmy / Ozzy Osbourne(過去映像の流用)

内容はヘヴィ・メタルの原点からNWOBHMの勃興と世界進出まで。
メタルのルーツとして、THE KINKSの「You Really Got Me」が挙げられています。デイヴ・デイヴィスがインタビューを受けています。続いてTHE YARDBIRDSJIMI HENDRIX EXPERIENCE。
ジョン・ロードが「何と言っても重要だったのはCREAMだった」と言います。グレン・ティプトンは「CREAM、それからFLEETWOOD MAC」と、さすが「The Green Manalishi」をカヴァーしただけあります。
ラヴ&ピースはバーミンガムには届かず、重労働と困窮と死とドラッグが日常だったと論じています。あとロブ・ハルフォードが「鉄鋼業が盛んだったから、毎日工場の音を聴いて、空気中を舞う鉄粉を吸い込んで育った」。このへんは先日インタビューした際にも語っていました。
60年代サイケデリア末期を飾るダーク&ヘヴィなアーティストとしてTHE CRAZY WORLD OF ARTHUR BROWNについて。
"ヘヴィ・メタル"という言葉を最初に使ったのがウィリアム・バロウズの『ノヴァ』三部作で、STEPPENWOLFの「Born To Be Wild」歌詞で広まったということ。
アメリカにはTHE DOORS、IRON BUTTERFLY、VANILLA FUDGEらがいたが、一番ヘヴィだったのはBLUE CHEERだったということ。ジョン・ロードとイアン・ギランは「"ロックンロール"でなく"ハード・ロック"を初めて意識したのがVANILLA FUDGEだった」。
THE EDGAR BROUGHTON BANDはヘヴィ・メタルとは言い難いが、デビュー・アルバム『WASA WASA』やセカンド『SING BROTHER SING』からの「Psycopath」などはヘヴィだった。さすがイギリスのTV番組だけあって、エドガー・ブロートンがかなりフィーチュアされています。
そして60年代末にLED ZEPPELINの台頭。
さらにブリティッシュ・ブルースのバンドだったEARTHがBLACK SABBATHと名前を変え、"匣から獣を解き放ち"ます。ギーザー・バトラーは「それまでイギリスのロックは中流階級がやっていたけど、俺たちはウルトラ貧困の中から出てきた」と語ります。BLACK SABBATHは"暗黒面の恐怖"を描いたバンドで、飾る花などなく、尻にブーツを叩き込まれるかカミソリで斬りつけられるかだったそうです。
おなじみパリでのライヴ映像や、バンド名の元ネタ映画『ブラック・サバス』トレーラーからの映像も流れます。
ジョン・ロードもヒッピー文化について「カフタンはイギリスじゃ寒いし」とさらりと批判しています。
さらにDEEP PURPLEが『DEEP PURPLE IN ROCK』で、URIAH HEEPが『VERY 'EAVY, VERY 'UMBLE』で登場。
その頃アメリカはベトナム戦争が続いていて、BLACK SABBATHの「War Pigs」などはリアリティあふれる歌詞で、「ライヴ会場を訪れた車椅子の観客が両脇を抱えられてスタンディングオベーションをした」と思い出すビル・ワードが思い出し涙を洩らす光景も。
ハード・ロックはイギリス全土に拡がっていき、ウェールズからはBUDGIEも登場します。今のバーク・シェリー、シワシワです。
ヘヴィ・メタルという音楽において重要なのはギター・リフでした。その手本としてブライアン・タトラーが「Paranoid」「Symptom Of The Universe」「Whole Lotta Love」「Smoke On The Water」のリフを弾いてみせます。この人、ずいぶん出番が多いです。
ジョン・ロードが「『Black Night』のリフはリッキー・ネルソンの『Sumemrtime』からいただいた」と語ります。
あとヘヴィ・メタルの特徴は大音量でした。ホルスト『惑星』が引き合いに出されます。
もうひとつヘヴィ・メタルの特徴はシンガーのハイトーン絶叫でした。ジャニス・ジョプリンが引き合いに出されます。
さらにヘヴィ・メタルの特徴は、リスナー層の大半が男だということでした。彼らはみんなレザーを着込んで首を振ります。
かくしてヘヴィ・メタルはイギリスを飛び出し、アメリカのブルーカラー層に支持されます。それはカルト教団やペイガ二ズムにも似たものでした。ここで全裸の男女が輪になって変な儀式をやる映像や、90年代ノルウェーの教会放火映像が挿入されます。そしてBGMはDIAMOND HEADの「Am I Evil」に。
1975年にニール・ケイがパブ『The Bandwagon』でヘヴィ・メタル・ディスコ「Soundhouse」を開催するようになり、イギリス中のメタル・キッズが集結します。今のニール・ケイ、超太っていて短髪です。Rob Loonhouseがエアギターの創始者として当時の映像と共に語られます。
ヘヴィ・メタルJUDAS PRIESTがさらに激しいものにして、MOTORHEADによってパンクとのクロスオーヴァーがなされます。THE DAMNEDとかも一種メタルっぽいです。
パンクに先駆けて、DEEP PURPLEは無意味な存在となります。ジョン・ロード自身「リスナーだけでなく、バンド自身にとってもどうでもいい存在となった」と語ります。
さらにBLACK SABBATHオジー・オズボーン、ビル・ワード脱退によって意味を失っていきます。
その一方でNWOBHMが勃興、IRON MAIDENが出現します。それは奇しくも"鉄の女" マーガレット・サッチャー政権樹立と前後していました。最初ヘヴィ・メタルは『Friday Rock Show』のようなマニア向けのラジオ番組でしか流れませんが、間もなくSAXONが『Top Of The Pops』に出演したりもします。
IRON MAIDENが『The Beast On The Road』ツアーでブレイク、メタルは世界に拡がって巨大化していくのでした。
...という内容です。
あっと驚く新事実などはありませんが、当事者たちの口から語られるヘヴィ・メタルの歴史が生々しいです。
90分番組でイギリスのヘヴィ・メタルの歴史すべてをひもとくことは不可能だし、UFOやDEF LEPPARDは出てきません。あと"ブリタニア"についての番組なので、THIN LIZZYも出てきません。
ところでこの番組で扱われている時代の後、イギリスのヘヴィ・メタルは代表バンドがTOKYO BLADEとTORMEという悲しい状況になってしまいますが、80年代終盤になってTHUNDERやTHE QUIREBOYS、SKINらオールドスクール系の台頭、90年代のTHE WILDHEARTS、TERRORVISION、SKUNK ANANSIEらブリットロックへと繋がっていきます。そしてヲタ層によるメロディアAORアンダーグラウンドを経て、21世紀にまさかのDRAGONFORCE降臨、という流れで良いのでしょうか。
BBCはこれまでも『Blues Britannia』『Jazz Britannia』『Prog Rock Britannia』などを放映しているので、日本でもまとめて放映あるいはソフト化して欲しいです。

                    • -

とか書いていたらDRAGONFORCEからZPサート脱退だそうです。