THE NIGHTWATCHMAN @渋谷クアトロ
トム・モレロはパフォーマンスのギターのボディにARM THE HOMELESSと書いたり、ストラトにSOUL POWERと書いたりしていますが、アコースティックにはWHATEVER IT TAKESと書いてあります。
これらの元ネタは、ウディ・ガスリーのギターに書かれたTHIS MACHINE KILLS FASCISTS(実際には紙に書いてボディに貼り付けてある)。
THE NIGHTWATCHMANの音楽性やコンセプトはガスリーからの影響が強く、『ONE MAN REVOLUTION』収録の「Maximum Firepower」の歌詞にもTonight I'll prove that this machine kills fascists tooという一節があります。
ガスリーは「This Land Is Your Land」を筆頭にアメリカの心を歌ったフォーク・シンガーで、ボブ・ディランやジョー・ストラマー(一時ウディ・メラーを名乗っていたほど)にも影響を与えたことで知られていますが、なにぶん1,000曲以上を書いた人なので、その音楽とキャリアの全貌を知るのは楽ではありません。僕もつまみ聴きしている程度で、もっと掘り下げねばと思いながらもなかなか。
とりあえずガスリーについて知りたい人は、2005年制作のDVD『THIS MACHINE KILLS FASCISTS』が便利です。
本編3時間とちょっと長めなのですが、彼の出生から放浪人生、音楽キャリアから死までを追っています。
ナレーションはWILCOと共にガスリー・カヴァー集『MERMAID AVENUE』『同2』も出しているビリー・ブラッグ。生前のガスリーを知るピート・シーガーも出てきて、相変わらずハリのある歌と演奏も聴かせてくれます。
それにしてもガスリーの人生が暗黒星です。お母さんがハンチントン病(舞踏病)で、姉クララが"事故"で焼死。お父さんもその後"事故"で大火傷を負います。ナレーションではお母さんがハンチントン病の発作でムキーとなって灯油をぶっかけたのではないかとほのめかしていますが、めったなことを言うわけにもいかず、実際のところは謎です。
しかもガスリーの生まれ育ったオクラホマ州オキーマは歴史的なダストボウル(砂嵐)のせいで農業が壊滅。近所の人たちはみんな貧乏になってしまいます。このへんはスタインベックが小説『怒りの葡萄』で書いていて、それを元ネタにブルース・スプリングスティーンが「The Ghost Of Tom Joad」を書いていて、RAGE AGAINST THE MACHNEがその曲をカヴァーしています。
それでガスリーは放浪生活を経てフォーク歌手となるわけですが、奥さんがちょっと家の前でオレンジを買っていた隙に、愛嬢がやっぱり灯油で焼死してしまいます。
打ちひしがれるガスリーは、今度は自分も母親からの遺伝でハンチントン病に冒されていることが判明。精神病院に収監され、1967年に55歳で他界するのでした。
なんだか『WISCONSIN DEATH TRIP』(こちらもご参照ください)のエピソードみたいなドゥームな人生ですね。この文章を書いていて、頭の中でEARTHの『THE BEES MADE HONEY IN THE LION'S SKULL』が鳴っています。
ところでハンチントン病の原因は、体内の特定タンパク質"ハンチンチン"の異常によって起こるそうです。
モレロさんに話を戻すと、昨年亡くなったイザベルおばちゃんに捧げる新曲「St. Isabel」の歌詞に「オランダの美術館で落ち木を拾う女の絵を見た」というのがありましたが、オフの時は美術館とか行っているんですね。
あとMCでこう言っていました。
AUDIOSLAVEのスウェーデン・ツアー中、街を歩いていたら、向こうから18歳ぐらいの女の子が二人やってきて、『トム・モレロさんですか?』と訊いてきたんで、『ムフフ、そうだよベイビー』と答えたら、『キャーすごい!クリス・コーネルさんはどこですか?』だってさ。『...きっとホテルで、どうやってバンドを解散させようか画策してるよ』って教えてやった。
スウェーデン=エロという図式は今でも健在なのだなぁ、と。