Boris with栗原ミチオ『Rainbow』

作り手には作品を発表する権利があって購買者にはそれを買わない自由がある、という当たり前の話はつまんないので置いといて。
Boris with栗原ミチオの『Rainbow』500セット限定LPボックスが24,500円という値段で論議を呼んでいます。僕は買いましたよ!ひえー
内訳は本編LPとボーナスLP(両方ともクリアビニール)、クラシックの全集とか卒業アルバムみたいにずっしり重い布張りイメージ・アート写真集、そして1曲入りDVDというものです。
DVDに入っている「虹が始まるとき」ビデオは白い部屋で顔がはっきりしないバンドが演奏するという、SLIPKNOTの「Before I Forget」に似ているような似ていないような映像です。
アルバム本編はメロウな曲調に非情なギターが突き刺さる、奇妙に昭和を匂わせる異色な作品ですが、ボーナスLPの「とまどう空 風が笑う」「霧を迎えに」は片面1曲ずつで、ドローンに非情なギターが突き刺さります。アルバム本編とは趣を異にする曲ではあるものの、我々の知るborisに近くて馴染みのあるサウンドで、むしろ本編よりハマれるかも知れない濃厚な仕上がり。ここでしか聴くことが出来ない、ファン泣かせの音源です。
写真集はアルバム各曲をヴィジュアライズしたもので、バンドがこんな視覚イメージを音にしていたのかという解題作として面白いです。僕が音を聴いて抱いていたイメージとまったく異なっていたのも興味深かったです。
当然ながら24,500円の価値があるのか?と疑問を抱かれる方が多いと思いますが、そこいらのウンコCDが2,500円することを考えると、その10倍の価値は楽勝であります。でもその一方で、たとえばDEEP PURPLE『LIVE IN JAPAN』3枚組CDが2,004円だということを考えると、えらく高い買い物です。
じゃあ『Rainbow』通常盤CDを起点として、その10倍の価値があるか?というと、
"本編の音楽+ヴィジュアライズによる解題&イメージ拡大+ここでしか聴けないボーナスLP(しかも中身良い)+でっかい希少盤を所有するフェティッシュな快楽+経済破綻によるマゾヒスティックな自己破壊願望成就"
を鑑みて、ある!と答えます。
でもそう感じて、しかも対価を支払う人はたぶん世界で500人ぐらいなので、需要と供給が成り立っているわけです。
そこまで付いていけない人は通常盤CDを聴けばいいわけだし。
Borisはこれまで音楽の限界の壁を破ってきたし、パッケージの限界の壁を破ってきたバンドであり、今回は価格の限界の壁を破るという、"価格"を表現手法としてきたのが斬新だと思います。
表現者の目的のひとつが受け手の感情を揺さぶることにあるのだとしたら、「そんなの買えねーよ!」と泣かせるというのは、その目的が達成されたといえるのではないでしょうか。
そもそもCDやLPが2,500円ぐらいというルールを守る必要はない訳です。通常のCDパッケージは原価とかを考えると2,500円ぐらいが妥当なんだろうけど、本来購買者はパッケージではなく中身に対価を支払っているのであって、いくらでも良いはずなのです。絵画界ではリトグラフとかは量産されているくせに原価と関係なく高いわけだし。
なにぶん無茶苦茶凝ったパッケージなので、原価がかなりかかっていて、この値段になってしまったというのが実情だと思いますが。
どうせなら普通のCDパッケージなのに2万円とかにしちゃえば、もっとインパクトがあったかも知れません。